河合拓始のよしなしごと
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今頃ですが、9月22日のピアノリサイタルの当日配布パンフレットの内容を載せておきます。
曲目解説については、2, 3, 6はチラシ裏面の曲目解説と同じです。 【プログラム】 第一部 1. しばてつ「棚」(2010) 2. 松平頼暁「共鳴」(1982) 3. 木村裕「アイオーン」(2005) 4. 鈴木治行「句読点 VIII」(2011 委嘱新作初演) 第二部 5. アレッシオ・シルヴェストリン「Ritrovare tricordale」(2002) 6. 平石博一「クロノスケイプ」(2006) 7. 高橋悠治「PIANO」(2000) 8. 木下正道「Crypte I & II」(2011 委嘱新作初演) ================ 曲目解説(作曲者プロフィールについてはチラシをご参照ください) 1. しばてつ「棚」(2010) 棚は、垂直方向の柱と水平方向の棚板からできているけど、柱には等間隔の穴が開いている。適当な間隔に金具を挿し棚板を設置すると棚が出来上がる。また棚は何か陳列する場でもある。本棚には背表紙が見えるように陳列するし、スーパーではどれだけ多くの棚に商品を陳列できるか棚の奪い合いで各メーカしのぎを削っている。ああ、ソ連の棚には何もなかった。 「棚」なのですが、等間隔の88鍵盤に広めにいくつか棚板を設定し、棚板間を即興的に飛び跳ねる曲です。2頁の譜面には飛び跳ね例が書いてあり、こんな感じでもうちょっと続けてと口頭で河合拓始に伝えました。どんな風に飛び跳ねるのか楽しみです。(しばてつ) 2. 松平頼暁「共鳴」(1982) 低音域のドの音を基音として第16倍音までの鍵盤をあらかじめ押鍵し中央ペダルで保持しておく。全曲はそれらの音を中心に進行するが、最後の部分で中央ペダルの保持が解かれ、ファ音上の倍音列に移行する。 3. 木村裕「アイオーン」(2005) アイオーンは古代ギリシャ語で、始源、日常を越えた大きな時、といった意味を持つ。宇宙的・根源的な時間を絵でも音でも探求した2005年の個展「Composition -記述-」で自作自演の録音物として発表。今回は生ピアノによるステージ初演。半独立した6頁からなる一曲。 4. 鈴木治行「句読点 VIII」(2011 委嘱新作初演) チラシに既に「句読点の基礎知識ABC」は載っているので、その先のことを少々。僕のいくつかの路線の中でも最も直感的なアプローチであるこの「句読点」シリーズは、いわば人間の持っている知覚能力とのバトルといってもいいだろう。同じ刺激を受け続けると、人の感覚は鈍麻してゆくのは誰しも日常的に体験することだが、常に新鮮な体験を持続させようと思えば、刺激に対して感覚が鈍ってきたあたりで新たなる刺激を提出する必要がある。早すぎても遅すぎても思う成果は得られない、そのタイミングを的確に捉えるのは非常に難しい。もちろん個人差もある。更にいえば、音楽がある程度進むと、刺激が次々に入ってくるというその状態自体に慣れが生じ、それをまたその上位レベルでひっくり返す戦略が必要となる。いかに聴き手の一歩先を行くかが問われているのだ。ここで、期待とはぐらかしの偉大な先達としてベートーヴェンの名前を挙げておくのも意味のないことではあるまい。(鈴木治行) ・・休憩・・ 5. アレッシオ・シルヴェストリン「リトロヴァーレ・トリコルダーレ」(2002) <リトロヴァーレ・トリコルダーレ - 音楽技法の分析> 「リトロヴァーレ・トリコルダーレ」は Franceso Valdambrini (1933-2007)が創始した技法ムジカ・トリコルダーレを援用し、その技法が用いるシステムのひとつである36音サイクル(H-A-G, F#-E-D, C#-H-A, G#-F#-E, D#-C#-H, A#-G#-F#, F-Eb-Db, C-B-Ab, G-F-Eb, D-C-B, A-G-F, E-D-C)を使用している。 このサイクルは曲全体を循環している。この作品は8分の9のテンポで書かれており、三つのセクションに分かれる。もともとはクラヴィコードのために作られたが、他の鍵盤楽器でも演奏できる。 最初のセクションは旋律素材を提示する。36音サイクル(それは6つのヘクサコードに分割されている)を3回使う。各ヘクサコルドは、二つのアルシスと二つのテーシスをもつフレーズ内で二つのトリコルドの音を置換する。第18小節まで。 二番目のセクションも、36音サイクルを続行。同じように二つのトリコルドから成るヘクサコルドに分かれる。それが置換と逆行による11音音列を作り、次第に加速する16分音符で演奏される。第18小節のアルシスからは A-G-F, E-D-C のヘクサコルド、第19小節以降はヘクサコルド H-A-G, F#-E-D (1-2-3, 4-5-6) が11音の列1-5-6-3-4-2-4-3-6-5-1を成し、C#-H-A, G#-F#-E (1-2-3, 4-5-6) が 1-3-2-6-5-4-5-6-2-3-1 を、D#-C#-H, A#-G#-F# (1-2-3, 4-5-6) が 1-3-4-2-6-5-6-2-4-3-1 を、F-Eb-Db, C-B-Ab (1-2-3, 4-5-6) が 5-4-3-2-1-6-1-2-3-4-5 を成す。 この置換パターンはヘクサコルドG-F-Eb, D-C-Bのテーシスで終わり、その一巡が2回反復され、そのあともう2回、メトロノーム速度を変えて三連符で反復される。 第三セクションは、第38小節のアルシスから始まる。第一セクションの旋律素材を使うが、旋律は幾分変奏される。またこのセクションは4つの大きなフレーズから成るが、それぞれの終結部は、様々なオクターブでC#音を強調して引き延ばされる。 (アレッシオ・シルヴェストリン) (河合註:題名のRitrovareは"見いだす""再獲得する"といった意味の動詞不定詞で、強いて題名を日本語にすれば"トリコルドによる発見""トリコルド再獲得"とでもなるかもしれない。しかしこの語を選んだ作曲者には、音楽史上のジャンルRicercareが念頭にあったようである。) 6. 平石博一「クロノスケイプ」(2006) 印刷インキの色見本帳の様に音の組み合わせのグラデーションを提示するという様な方法でかつて「プリズマティック・パルセイション」という弦楽四重奏のための音楽を書いたのですが、その方法を少し自由な形で復活したいと思って書いたのがピアノ曲「A Vision」で「クロノスケイプ」はその2作目です。性格の異なった4つの部分が連続して演奏されますが、どれもB音を中心に展開して行きます。(平石博一) 7. 高橋悠治「PIANO」(2000) PIANOというタイトルを持つシリーズは2000年から2006年にかけて4曲が書かれているが、いずれも作曲者が以前に書いた楽曲をバラバラに解体した断片的なモチーフでできており、それをもとに演奏者はその場で即興的に敷衍・逸脱・応答することが求められる。 楽譜の前書き(原文英語、翻訳河合): 「ABCDEの五部分をこの順序で。 ひとつの部分のなかでは、「もと(source)」の要素を使って、 沈黙にふちどられてそれを演奏するか、 あるいは置換したり、逸脱したり、即興的な音で反応したりするなど、 要素から示唆される他の方法で演奏する。 手を聴き続けること。」 8. 木下正道「Crypte I & II」(2011 委嘱新作初演) "Crypte"はフランス語で地下納骨堂を意味し、また"隠されたもの"の暗喩でもあります。即興演奏家としても大変素晴らしい河合さんのために、自身として初めての(確定記譜による)ピアノソロ作品を書くということで、まずは即興では難しいと思われる時間の厳密な設計及び管理の下、逆にまさに即興的な判断を必要とする響きに聴き入りそこから次の持続を紡ぎ出すような姿勢を、タッチとペダルの様々な関係性の網目のうちに単純なモチーフから透かし見る(聴く)ような曲を2つ用意いたしました。といっても2曲に著しい対照があるわけではなく、むしろ同じモチーフの2つの展開といえるでしょう。Iの方が長く激しく、IIは幾分短くかつ静かです。なおこれらは単独でも演奏できます。(木下正道) 主催:カラー・レコーズ 協力:naya collective、すずえり、高橋智子、木下正道 PR
長年パリで活動されている舞踏家の七感弥広彰(ななみ・こうしょう)さんが 一時帰国中の機会に、即興デュオです。
====== ★2011年9月29日(木)pm8:00開演(7:30開場) <七感弥広彰(舞踏)+河合拓始(ピアノ)> 会場:下北沢「Seed Ship」(世田谷区代沢5-32-13 3F 03-6805-2805) http://seed-ship.blogspot.com/p/access.html ¥2500(1ドリンク付き) *30名限定 ====== 七感弥さんtweetより: 「下北沢で河合拓始さんとデュオ休憩入れて2本やる予定 手紙のやり取りから初めて距離感とか濃度の変化広がってゆくようなゆったりとした即興 パッションや陶酔よりも鋭角な感じ。」 このデュオで10月15日に熊本、17日に福岡でも公演する予定です。
一昨日のリサイタルはおかげ様で無事終了しました。
来てくださった皆さま、助力応援してくださった皆さま、心より御礼申し上げます。 打ち上げは私としては珍しく"朝までコース"となり堪能しました(笑) 昨日より半年振りに実家に帰省、数日滞在します
チラシ裏面に載せた各曲の簡単な解説と、作曲者の簡単なプロフィールは下記の通り。
======================= ★平石博一「クロノスケイプ」(2006) 「印刷インキの色見本帳の様に音の組み合わせのグラデーションを提示するという方法で、かつて弦楽四重奏曲「プリズマティック・パルセイション」(1975)を書きましたが、その方法を少し自由な形で復活させようとしたのがピアノ曲「A Vision」(2005)で、「クロノスケイプ」はその2作目です。性格の異なった4つの部分が連続して演奏され、どれもB音を中心に展開します。」 (作曲家プロフィール) 1948年生。独学で作曲を修得。作品を初めて発表した72年から一貫してミニマル・ミュージック的な作風を追及し続けてきた,日本ではほとんど唯一の存在。作品の形態は幅広いが、ある種のテクノ・ミュージック、ハウス・ミュージックとも呼べる作風も多く生み出している。舞踏や映像・美術とのコラボレーションも多く、空間音楽パフォーマンスも継続して展開中。 ★松平頼暁「共鳴」(1982) 低音域のドの音を基音として第16倍音までの鍵盤をあらかじめ押鍵し中央ペダルで保持しておく。全曲はそれらの音を中心に進行するが、最後の部分で中央ペダルの保持が解かれ、ファ音上の倍音列に移行する。 (作曲家プロフィール) 1931年生。作曲を独学。常に時代の最先端の作曲様式を持ち、1950年代は総音列技法、60年代は不確定性の音楽や引用による音楽、1970年代は旋法による音楽を作曲、現在は独自のピッチ・インターヴァル技法を考案しさらに進化を続け旺盛な作曲活動を行っている。海外での受賞も多数。 ★高橋悠治「ピアノ」(2000) PIANOというタイトルを持つシリーズは2000年から2006年にかけて4曲が書かれているが、いずれも作曲者が以前に書いた楽曲をバラバラに解体した断片的なモチーフでできており、それをもとに演奏者はその場で即興的に敷衍・逸脱・応答することが求められる。 (作曲家プロフィール) 1938年生。作曲家、ピアニスト。1960年代は欧米で現代音楽のピアニストとして活動し、帰国後の1970年代は前衛音楽誌「トランソニック」の編集、バッハやサティの録音、1980年代は抵抗歌を演奏する「水牛楽団」ミニコミ紙「水牛通信」、1990年以降は伝統楽器や声のための作曲など活動は多岐に渡り、影響力を持つ。作品、CD、著作多数。 ★木村裕「アイオーン」(2005) アイオーンは古代ギリシャ語で、始源、日常を越えた大きな時、といった意味を持つ。宇宙的・根源的な時間を絵でも音でも探求した2005年の個展「Composition -記述-」で自作自演の録音物として発表。今回は生ピアノによるステージ初演。半独立した6頁からなる一曲。 (作曲家プロフィール) 1957年生。柴田南雄に作曲を学んだ。1990年代から現代美術家として活動を開始、国内外で作品を発表している。近年は美術とテキストと自作音楽を組み合わせた展示を行っている。主なピアノ作品として曲集「モンポウに寄せて」(2000)「兆」「階」などがある。 ★しばてつ「棚」(2010) 「棚は、垂直方向の柱と水平方向の棚板からできているけど、柱には等間隔の穴が開いている。適当な間隔に金具を挿し棚板を設置すると棚が出来上がる。この曲は、等間隔の88鍵盤に広めにいくつか棚板を設定し、棚板間を即興的に飛び跳ねる曲です。」 (作曲家プロフィール) 1959年東京都生。鍵盤ハーモニカ、ピアノ奏者、作曲家。自らは兼業音楽家と称する。鍵盤ハーモニカによる演奏活動を1987年頃から継続。ジャズや現代音楽に刺激を受けた独自のアイデアにより、即興的な作品・確定的な譜面作品を、ソロや合奏のために作曲している。 ★アレッシオ・シルヴェストリン「Ritrovare tricordale」(2002) 師のFrancesco Valdambrini(1933-2007)の作曲技法"Musica tricordale"を援用して作曲されている。全音ー全音の間隔を持つトリコルド2つが半音を隔てて接続されたディアトニックなヘクサコルド(六音音階)(例えばE-D-C-H-A-G)が、共通するトリコルドを介して別のヘクサコルドに次々に遷移していく。2声曲。 (作曲家プロフィール) 1973年ヴィチェンツァ(イタリア)生。ダンサー/振付家/作曲家。舞踊と並行して音楽の専門教育を受ける。フォーサイス率いるフランクフルト・バレエ団で活躍後、2003年より日本を拠点にしつつ世界各国で振付や公演を行う。自身の舞台作品の音楽の多くを自ら作曲しており、楽譜はedizioni ARCA MUSICAから出版されている。 ★鈴木治行「句読点 VIII」(2011 委嘱新作・初演) 「句読点」は、作曲者が1992年から書き始めたソロ楽器のための作品シリーズで、1~7番はそれぞれチェロ、オーボエ、ソプラノ・サックス、ヴィオラ、トランペット、チェンバロ、二十絃箏のために書かれた。持続的なパターンに唐突に異物を差し挟むことで、意識的に聴取体験を脱臼させることが主眼に置かれている。今回の第8番は、このシリーズの8年ぶりの新作。 (作曲家プロフィール) 1962年東京都生。ほぼ独学で作曲を学ぶ。「二重の鍵」(1995)で第16回入野賞受賞。映画『M/OTHER』(諏訪敦彦監督)の音楽で毎日映画コンクール音楽賞(2000)。無声映画にライブで電子音響をつけるパフォーマンスや、芸術全般についての批評活動も行い、作品は国内外で演奏、放送されている。 ★木下正道「クリプト I & II 」(2011 委嘱新作・初演) Crypteはソロ楽器のための作品名で、現在までに笙、マリンバ、ヴァイオリン、ヴィオラ等のために第7番までが作られているが、これは作曲者初のピアノソロ曲で、欠番としていた I、II が満を持して充てられた。「Crypteは地下納骨堂を意味し、また"隠されたもの"の暗喩でもある。ピアノの響きの様々な事象を、タッチとペダルの様々な関係性の網目のうちに単純なモチーフから透かし見る(聴く)ような、ピアノ作品2種を用意する」。 (作曲家プロフィール) 1969年福井県大野市生。ハードロックバンド,ブラスバンドなどの体験の後,東京学芸大学で音楽を学ぶ。武満徹作曲賞などに入選。作曲と演奏会企画と電気機器による即興を3つの柱として活動を展開する。
前回投稿の続きも書くがー
今週はソロリサイタルが控えています。 今年の3月以降の演奏活動に関してもまた稿を改めることになるかもしれませんが、 ともかく。 情報は、ウェブサイトに載せているのと同じく下記の通り。 ●河合拓始ピアノ・リサイタル ●日時: 2011年9月22日(木) 開場6:30pm 開演7:15pm ●会場: 門仲天井ホール(東京都江東区門前仲町1-20-3-8F 03-3641-8275) http://www5f.biglobe.ne.jp/~monten/ ●出演者: 河合拓始(ピアノ) ●料金: 予約3000円/当日3300円 ご予約は colorrecords(アットマーク)gmail.comまで ●プログラム: 平石博一「クロノスケイプ」(2006) 松平頼暁「共鳴」(1982) 高橋悠治「PIANO」(2000) 木村裕「アイオーン」(2005) しばてつ「棚」(2010) アレッシオ・シルヴェストリン「Ritrovare tricordale」(2002) 鈴木治行「句読点 VIII」(2011 委嘱新作初演) 木下正道「Crypte I & II」(2011 委嘱新作初演) ● 「いま充実した創作期にある鈴木治行、木下正道への委嘱新作。 戦後の前衛音楽を牽引し現在に至るまで活発な創作を続ける松平頼暁、高橋悠治。 テクノ的とも言える作風を見せるミニマリスト平石博一。 作曲を専門に学んだがそれぞれ美術家・舞踊家として活躍する木村裕、アレッシオ・シルヴェストリン。 独自の視点で即興性を持った作曲をするしばてつ。 八人八様の作品をヴィヴィッドな音楽としてお届けできたらと思います」 (*敬称略恐縮です 河合拓始) |
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